中山 杜人

メニエール病のウイルス治療について

 

--当科では、めまいの診断だけでなく、メニエール病をはじめとして、診断名にかかわらず必要な方や希望する方に抗ウイルス療法として、ファムビル・バルトレック(最近ジェネリック、後発品も使えるようになりました)、ゾビラックス(ジェネリック、後発品)の治療も行っております。
特にメニエール病の治療は、まずウイルス療法を行ってめまいを抑えておき、その後、運動療法を取り入れると、耳鳴り・聴力低下にも効果的と考えています。

 2009年に米国ですでに、「メニエール病はヘルペスウイルスが原因」との論文が発表され、抗ウイルス剤による「めまい」改善率91%が報告されています。

額田記念病院  
内科  中山杜人




  

良性発作性頭位めまい症状に抗ウイルス薬

ー抗ウイルス薬が劇的な効果を示す「良性発作性頭位めまい」の症状の方たちがいます。
この方たちは、他の治療では良くならなかったり、頑固にめまいが続いていた人たちです。

次にその具体例として6人の方をお示しします。
  1. 40歳代の男性:眼振所見(眼の異常な動き)では、三半規管のうちの一つである、後半規管型といわれている良性発作性頭位めまいの典型例(耳鼻咽喉科を受診しても、この診断名がつくはずです)でしたが、いつも通りの抗めまい薬ではまったく効果がありませんでした。本人の希望もあり、抗ウイルス剤のファムビル*でめまいも眼振もが完全に消えました。
  2. 40歳代の男性:この方も、眼振所見(眼の異常な動き)では、後半規管型といわれている良性発作性頭位めまいの典型例です(耳鼻咽喉科を受診しても、そういう診断名がつくはずです)。本人の希望もあり、抗ウイルス剤のファムビルを処方しましたら、2〜3錠飲んだだけでめまいも眼振も完全に消えました。劇的効果を示したケースです。普段から肩と首のコリが強いとのことでした。
  3. 40歳代の男性:眼振所見(眼の異常な動き)で、近くの耳鼻咽喉科にて三半規管の一つである水平半規管型の良性発作性頭位めまいと診断されていました。遠方からの来院でしたが、ファムビルが効を奏し、めまいは完全に消えました。
  4. 40歳代の男性:やはり、近くの耳鼻咽喉科で水平半規管型の良性発作性頭位めまいと診断されていました。今一つめまいが治まらないとのことでしたが、バルトレックス*を内服し、めまいは消えました。
  5. 米国の或る有名大学病院にて良性発作性頭位めまいと診断された女性です: 普通の抗めまい薬では効かず、ファムビルを著者の指示通りに米国の医師に処方してもらい、めまいは良くなりました。この方はむち打ち症の既往があり、肩と首のコリが強いとのことです。
  6. 70歳代の女性:高血圧、脂質異常症。眼振所見からは、耳鼻咽喉科に行けば水平半規管型の良性発作性頭位めまいと診断されるはずです。しかし、よく使用される抗めまい薬ではなかなかめまいも眼振も改善しませんでした。そこで、ファムビルを使用しているうちにめまいも眼振も改善してきました。

 これらの人たちは、現在世界を席巻している、「良性発作性頭位めまい」の原因として、内耳の三半規管の中を耳石が移動するということで説明できるのでしょうか?
中には一部の人で、そのような原因でめまいが起こる人もいるでしょうが、不自然です。
 私は、上に挙げた1〜6の人たちのめまいの原因は、内耳における耳石移動ではなく、首や肩のコリをベースに、緊張した筋肉の圧排や頸部交感神経叢の刺激から生じる椎骨脳底動脈の血行不良に、ヘルペスウイルスの活性化が上乗せされたためにめまいが起きたのではないかと考えています。ですので、厳密には「良性発作性頭位めまい」ではなく、脳幹、小脳に起因する「中枢性発作性頭位めまい」の診断になります。
 従来、「メニエール病」と「良性発作性頭位めまい」はまったく違う原因であるという考えがあります。私もかつてはそう考えていました。
 でも、ヘルペスウイルスも原因の一つということになれば、良性発作性頭位めまいのすべてとはいいませんが、内耳半規管内の耳石移動説は考え直す必要があると思います。

*抗ウイルス薬のファムビル、バルトレックスは、単純ヘルペス、帯状疱疹ウイルスに効く薬です

 福沢諭吉は、「『疑うことに真理が多い』とし、異論を出して議論し、事物の真理を求めるのは、まるで逆風の中、船を進めるようなものだ。社会が進歩して真理に到達するには、この異論を出して議論する以上の方法はない」と書いています。
(現代語訳「学問のすすめ」、ちくま新書、齊藤 孝訳2009年2月10日発行)